優秀な若者が離れていく国
今週いつものように同僚とランチに行くと、インドネシア人の同僚が
「今日はフェイスブックのフィードが大変なことになってる」
と話し始めました。
なんのことだろうと思ったら、ジャカルタの現知事にイスラムへ対する不敬罪で実刑判決が下ったとのこと。
ジャカルタ州知事、イスラム教への冒とくで有罪判決 - BBCニュース
少数派出身の知事
この知事アホックの話は以前から同僚にちょくちょく聞いていました。彼はジャカルタではじめての中華系クリスチャンの知事で、前ジャカルタ知事で現大統領のジョコウィからの改革路線を引継いだ人です。
手腕は評価されていたものの中華系クリスチャンということで大多数を占めるイスラム教徒との摩擦が問題となっていて、失言を機にとうとう告発され裁判にかけられたところまでは聞いていました。
とはいえ問題とされた失言についてはビデオがいいように編集されて拡散したようです。日本でもよくある悪意のある編集かと思いますが、以前から余計なことを言ってしまう性格だったらしく、その点は軽率だったのでしょう。
これを機に勢いづいたイスラム強硬派のネガティヴキャンペーンが影響し、最近あった知事の任期満了に伴う選挙では対立候補に敗れています。
そして懲役2年という軽くない判決が言い渡されました。
なんというか、まんまとはめられてしまった感があります。
表向きには信仰の自由が許されているはずのインドネシアですが、インドネシアの不敬罪というのは多数派イスラム教徒以外の少数派を標的に使われているのが実態のようです。
今回のケースに関しては、言った言わないの議論から、そもそも宗教を政治に持ち込むな、司法が政治に屈したなど、さまざまな面で批難が噴出しています。
私がFB上でつながっているインドネシア人達ももれなく失望感をあらわにしていました。
以前から遺恨のある中華系クリスチャン
私の仲のいい同僚も中華系クリスチャンのインドネシア人なのですが、彼が子供の頃インドネシアで中華系やクリスチャンに対する暴動があったそうです。
背景にはクリスチャンに対する差別に加え、中華系に対するやっかみもあるようです。
というのも、もともと移民である中国人は持ち前の勤勉を武器にどんどん成功していきますが、逆にのんびり暮らしていた地元民にしてみれば、いつの間にかよそ者が経済を牛耳って自分たちは貧しくなっているため面白くありません。そういう不満がたまりにたまって暴動という結果になったようです。
インドネシアではその暴動を機に中国語が禁止されたそうで、このため現在30歳前後の移民3世くらいの中華系インドネシア人達は、親は中国語を話せるけど自分は話せないという人がほとんどです。
ちなみに、 2016年の調査では上位1%の金持ちが国全体の資産の49%を保有しているとのこと。現在も貧富の差がかなり激しいと言えます。
According to the Credit Suisse Research Institute's 2016 Global Wealth Report, the top 1 percent wealthiest Indonesians owned 49.3 percent of national wealth, making it among the most unequal nations in the world.
Exclusive - Indonesian Islamist leader says ethnic Chinese wealth is next target | Reuters
優秀な若者は国を出る
私の住むシンガポールには優秀なインドネシア人がたくさん働いています。私の知っているだけでもシンガポール大学卒のインドネシア人が何人もいます。
彼らはその辺のシンガポール人よりだいぶ優秀です。しかも結婚するまで親と暮らすのが普通なシンガポール人と比べると、留学期間中から親元を離れ独り暮らしが長いせいか自立してしっかりしていますし、たいてい永住権も取り割と若いうちに結婚してHDB(公団住宅)も購入しています。
そして、こういった優秀なインドネシア人は100%中華系です。
今回の判決は彼らの反発を招き、失望のあまりもうインドネシア国籍を棄てシンガポールなど他国に帰化しようと考えた人達も多数いるようです。
私が直接知っているインドネシア人達を思い浮かべると、人懐っこく親切で賢く、正直シンガポーリアンより好きなくらいとても良い印象があるのですが、ニュースで見聞きするインドネシアとはだいぶギャップがあります。
彼らを知っている私からすれば、こんなに優秀な人材を活用できず手放してしまう国はいつまでたっても豊かにはなれないのでは…と少し心配になります。余計なお世話ですが。